01:土地の価格を考えるー不動産鑑定ゼミナール
目次
- (1)モノの価値を判断する3つの側面
- (2)価格の三側面に加え、さまざまな要因を分析し、価格に反映
- (3)マクロ的な視点から要因を分析する「一般的要因」
- (4)「地域」は住宅地域・商業地域など土地利用形態や用途的地域という視点から分析
- (5)ミクロ的な視点から要因を分析する「個別的要因」では対象不動産そのものに着目
- (6)個別的要因のうち、特に価格への影響が大きいのは「その土地が接している道路との位置関係」と「土地の形状」
- (7)絶対に抑えてほしい街路と各地のチェックポイント
- (8)評価が高くなる土地の例と低くなる例
みなさん、突然ですが、土地の価格はどのように決まっているか、考えたことはありますか?
不動産は、定価がなく、その価格を判断しづらいのが特徴……。
そんな不動産を評価して、その価値を判定するのが、不動産鑑定士です。
今日のブログでは、不動産鑑定士がどのように土地の価格を評価しているのかと、不動産の特徴を感じていただける事例をご紹介したいと思います。
少し長くなりますが、お付き合いください。
モノの価値を判断する3つの側面
例えば、みなさんがメーカーの商品企画担当だとします。
新しい商品を売り出すにあたって、定価を決めなければならない場合、どのように値付けをしますか。
まずは、その商品をつくるにあたって、どの程度の費用がかかるかを試算して、それをもとに利益のでる価格設定をするかもしれません。
または、すでに市場にある似たような商品の値付けを参考にする場合もありますよね。
さらには、その商品を利用することで、どの程度の利益を得られるのかも考慮するでしょう。
不動産の値付けも同様です。
その不動産ができるまでに、どのくらいのコストが投じられているか(費用性)、その不動産と似ている物件が市場でどのくらいの価格で取引されているか(市場性)、その不動産を利用することでどのくらいの収益が得られるか(収益性)という3つの側面(価格の三側面と言います)からアプローチします。
費用性からアプローチをすることを「原価法」、市場性からのアプローチ方法は「取引事例比較法」、収益性からのアプローチは「収益還元法」と言います。
価格の三側面に加え、さまざまな要因を分析し、価格に反映
ここまでの説明では、一般的なモノに比べて、不動産が特殊と思えませんよね。
でも、よく考えてみてください。
一般的なモノは量産して販売できますが、不動産には似たような物件があっても、同じものということはありません。
2つとして同じものがないので、前述した三側面だけで判断はできません。
そのため、さまざまな要因を分析し、価格に反映していきます。その要因は、大別して3つ。
(1)政治、経済や人口の状態から気候など国全体の不動産に共通する要因(一般的要因)に、(2)ある地域の不動産に共通の要因(地域要因)、(3)その不動産そのものの個別要因(個別的要因)です。
大小さまざまな視点から分析し、不動産の適正な価格を判定します。
マクロ的な視点から要因を分析する「一般的要因」は
全般的な地価の水準に影響を与えます
基本的に、不動産の価格は売り手と買い手の需給関係によって定まります。
これに対して、一般的要因は、全体の需給関係に影響を与えるものです。
まず、全般的な地価の水準に影響を与えるさまざまな要因を分析します。
下の図をご覧ください。
「自然的要因」「社会的要因」「経済的要因」「行政的要因」に分けられるさまざまな要素がそれぞれに影響を与えています。
これらの要素を分析しなければなりません。
似たような利用方法の不動産が集まり形成される「地域」。
住宅地域・商業地域など土地利用形態や用途的地域という視点から分析します
不動産はそれぞれが独立した存在です。
とは言え、動産とは違って、その不動産単独で利用価値が生まれるものではありません。
例えば、秘境にポツンとある一軒家。
誰にも邪魔されず、静かに暮らせるというメリットがあるかもしれませんが、道路が整っていなかったり、近くに学校、病院、商店などがなければ、暮らしやすい環境とは言えませんね。
そうした生活インフラが整うことによってはじめて利用できるのが、不動産の特徴。
そのため、不動産の鑑定評価にあたっては対象となる不動産が、どのような地域にあるのか、そして、その地域はどのような特徴を持った地域で、その不動産をどのように利用するのがベストなのかという視点で分析する必要があります。
住宅地域なら日照などの自然的な要因に加えて、商店や公共施設の近さといった居住する上での快適性や利便性が重要ですし、商業地域なら繁華性などの収益面が大切です。
地域分析では、基本的に土地の利用形態、土地利用規制、建物建築規制が概ね共通する地域を対象に、その地域に属する不動産の価格形成に影響を与える要因(地域要因と言います)を分析します。
そして、近隣地域の標準的な画地の価格(標準価格)を求めます。
地域要因の分析項目は以下の通りです。
ミクロ的な視点から要因を分析する「個別的要因」では
対象不動産そのものに着目
これまでも、説明してきた通り、不動産に同じものはありません。
それぞれに個別性があり、不動産鑑定評価の実務では、その個別性を個別的要因と言います。
この個別的要因によって、価格が異なってきます。
では、住宅地を例にして、価格に影響を与える個別的要因について、考えてみましょう。
このような観点から要因を分析していきます。
そして、上記の地域分析で導き出した、近隣地域の標準価格に対して、対象不動産の増減価要因を分析。
例えば、対象不動産が角地であればプラスになりますし、形状が不整形であればマイナスに。
このプラスやマイナスを格差率として、個別的要因を考慮した価格修正を行います。
個別的要因のうち、特に価格への影響が大きいのは
「その土地が接している道路との位置関係」と「土地の形状」
実は、「不動産の価格は道路で変わる」と言っても過言ではないほど、道路との関係が重要です。
ただ、広い道路に接地していれば良いかといえば、一概にそうとは言えません。
「狭いより広い方が良い」というのが基本ですが、それは土地がどのような用途的地域内にあるかによります。
例えば、住宅地では、車のすれ違いが難しい4m未満の道路よりも6m程度の広さの道路の方が好まれるのが一般的です。
ただ、道路の幅員が広い方が良いからといって、広いゆえに車が多く通る道路だと、騒音や排気ガスが気になります。
狭い広いという観点だけでなく、「良い」と思う人が多いほど、価格が高くなるということです。
しかし、建築基準法上の道路に該当しない道路は、論外。
間口が、建築基準法上の道路に2m以上接面していなければ、原則として再建築ができないため、土地価格に大きな影響を及ぼしてしまいます。
また、土地の形状も大切です。
建物をレイアウトしやすい長方形や正方形などの整形地の方が、L字型などの不整形地よりも価格が高くなります。
今度は、ある住宅用地を購入しようという時に、ぜひチェックしておきたい9のポイントをあげてみましょう。
みなさんは、何を基準に考えますか。
建物を建てて住むのが目的ですから、土地の形状や規模というのはポイントにする方が多いですね。
あとは、方位などは一般的に考慮するかもしれません。
ただ、これまで説明してきたように不動産価格に大きな影響を与えるのは、土地が接している道路です。
道路の種別(公道か私道か)、建築基準法上の道路かどうか、セットバックが必要かどうかは必ずチェックしてほしいポイントになります。
むかえ不動産鑑定事務所・助手とん
では、最後に、少し極端ではありますが、高評価となる土地と低評価となる土地の例をあげてみます。
みなさんは、どちらの土地に住みたいですか?
ぜひ、評価ポイントのイメージを膨らませてチェックしてみてください。
項目 | 高評価 | 低評価 |
交通アクセス | 都心部へ電車で20分以内 最寄駅から徒歩10分以内 | 都心部へ電車で1時間強 最寄駅からバスで10分 |
生活利便性 | 商業施設へ徒歩2分 | 商業施設へ車で10分 |
インフラの状況 | 上下水道・都市ガス | 浄化槽・プロパンガス |
地勢や地質、地盤 | 高台で固い地盤 | 河川近くの埋立地 |
街並み・景観 | 効果的・効率的な 街路修景・緑化手法が採用されている | 形状バランスの悪い街並みで 緑化手法も採用されていない |
嫌悪施設 | なし | 上空に高圧線あり |
道路の種別 | 公道・ 建築基準法上の道路 | 私道・ 建築基準法上の道路ではない |
接道状況 | 角地 | 無道路地 |
方位 | 南道路 | 北道路 |
形状 | 整形地 | L字型の旗状地(不整形地) |
規模 | 地域で標準的な面積 | 狭小地 |
間口・奥行 | 広い間口にバランスの良い奥行 | 狭い間口で奥行が長い |
セットバック | 必要なし | 必要 |
いかがでしたか。
この記事をお読みいただいて、土地の価格がさまざまな要素により構成されているということがお分かりいただけたと思います。
次回のブログでは、事例をあげて、土地の価格について考えるケースワークをご用意しています。
ぜひ、不動産鑑定評価の観点から土地について考えていきましょう!