
前回のコラムでは、地域と文化の時差を起こした「練馬発・南会津行き!お面トレンドの仕掛け人はとん助手?」のお話をしました。
今回は、毎日の暮らしの足元である「練馬高野台」の駅前で起きている変化から、現代の商業不動産とデジタル、そして私たちが選ぶ「街の居心地」についてお話ししたいと思います。
ぶらぶら買いの楽しさが消えていく……?
いま、練馬高野台駅前のピーコックストア1階が改装工事を進めています。
長年親しまれてきた不二家やアパレル店舗が閉店し、今年9月、新たに家電量販店がオープンする予定です。
この変化を目にしたとき、正直なところ私の心には、地元で暮らす一人の生活者としての寂しさがこみ上げてきました。
「服だってやっぱり実際に試着して選びたいし、不二家がなくなって高野台の日常のスイーツ事情は悪化の一途だよ……(ケーキはデパートで買えるけれど、あの身近さが良かったのに!)」と。
「そもそも、家電なんてネットで買えばいいんじゃないの?」
そんな疑問が頭をよぎった瞬間から、元マーケターであり宅建士でもある私の頭の中で、街の変化の裏にある「構造」が浮き上がりました。
駅前も「Yahoo!のファーストビュー」から「Googleの検索結果」へ
なぜ、駅前の一等地に家電量販店が入るのか。
不動産の視点で言えば、答えはシンプルです。アパレルや洋菓子店に比べて、高単価で日用品まで幅広く扱う家電量販店は、広い面積を消化しながらしっかりとした賃料を払い続けられる「賃料負担能力」が高いからです。
でも、理由はそれだけではありません。この変化は、私たちが普段使っているデジタルの世界と驚くほど似ています。
かつてのデパートや駅前の複合店舗は、通りかかる誰もが目にするスクランブル交差点の大型ビジョンのような場所でした。これをデジタルの世界に当てはめると、誰もが訪れる「Yahoo! JAPANトップページの巨大バナー(ファーストビュー)」。「何となく通りかかった人」の目を引き、認知してもらう(インプレッション型)場所だったわけです。
ところが現代の駅前店舗は、まるで「Googleの検索結果」のように変化しています。
「目的が明確な人(コンバージョン率の高い人)」だけが、そこを目がけてやってくる「目的来店型(CVR重視)」の空間へとシフトしているのです。
「ぶらぶら歩いて偶然ステキな服や美味しいケーキに出会う」という楽しさは減ってしまいましたが、近隣の南田中団地をはじめとするシニア層の方々にとって、「ネットの画面ではなく、対面で専門スタッフに相談して、今日すぐ持ち帰れる」という目的来店型の家電店は、とても理にかなった存在に違いありませんね。
ネットスーパーのストレスと、サミットの圧倒的「タイパ」
「ネットで買えばいい」と言われがちな時代ですが、リアルな店舗の価値は決してなくなっていません。
私自身、ネットスーパーがあまり得意ではありません。その理由は「探すのが大変すぎるから」です。毎回同じものをリピート買いするなら便利なものの、欲しいものを探すために画面上の深い階層をクリックしていく作業は、かなりのストレスになります。
何より、「配達のために、その時間帯に家に縛り付けられる」という目に見えないタイムコストが発生します。
一方で、近所のサミットのようなリアル店舗に行けばどうでしょう。
自分の目で見て鮮度を確かめ、その場でサッと買って帰れば、ものの15分〜20分で完了します。
ネット通販がどれほど進化しても、「五感で選んで、待たずにすぐ手に入る」というリアル店舗のタイパ(タイムパフォーマンス)と圧倒的な安心感には勝てないのです。

中身は変われど、街の暮らしを支える「器」は残り続ける
かつて私が育った石神井公園からこの練馬高野台へ移り住み、実感していることがあります。
それは、大きな開発がないローカル駅だからこそ、石神井川の桜並木や四季折々の豊かな自然が残り、静かで穏やかな住環境が保たれているということです。
駅前のピーコックに入っていたお店が変わるように、時代やニーズに合わせて「中身」はアップデートされていきます。しかし、街の居心地や人々の暮らしを受け止める「器(うつわ)」としての駅前や住環境は、形を変えながらもそこに残り続け、私たちの日常を支えてくれています。
自分が欲しいものを扱うお店が消えていく寂しさを感じつつも、街がそこに住む人々の暮らしに合わせてしなやかに変化していく姿は、どこかたくましくもあります。
9月にオープンする家電量販店で、地域の方々が楽しそうに買い物をしている風景を楽しみに、今日も石神井川沿いの風を感じながら家に帰りたいと思います。

(次回は、後楽園のジャイアンツから、所沢のライオンズへ。住民が「推し獅子」と生きる街ですよ。お楽しみに!)

とん助手 (とんじょしゅ)
練馬育ち | 宅地建物取引士
練馬で育ち、この街の変遷や歴史(地歴)を肌で感じながら育った宅地建物取引士。「誰もが売り込まれずに、安心して本音を話せる場所を作りたい!」という自身の経験から生まれた強い想いで、皆様の相談窓口を担当しています。
地元の細かな道から学区のブランド価値まで知り尽くす生粋の練馬っ子ならではの視点で、難しい書類や手続きも優しくナビゲート。
ブログでは、地元の愛おしい記憶を言葉に紡いでいます。
時代とともに街の景色や役割が変わっても、その場所で人々が紡いできた「暮らしの記憶」に寄り添い続けること。
単なる数字(評価)を追うだけでなく、時代の波による店舗の変化や生活者のリアルな動線までをも深く見つめる私たちの、それが大切なプライドです。
